前回の記事では概要だけを解説しました。こちらの記事では、より詳細なペルチェ素子を使った発電機(試作)の作り方や、発電効率の検証を追っていきます。
【前編】ペルチェ素子を使った発電機を作る
「ペルチェ素子」とは
2種の半導体(N型とP型)の接合面を電流が流れると熱の発生または吸収が起こり、この現象をペルチェ効果といいます。
これはゼーベック効果の逆効果といえます。N型からP型へ電流が流れるときに、発生または吸収される熱量は電流に比例します。したがって図の加熱面と冷却面に熱を与え温度勾配を作ると、ゼーベック効果にて電流が発生するのです。
ゼーベック電池を制作する
ペルチェ素子(S.I.S製T150-60-127型)を3個用意する。
厚さ1.5mm、10cm角の銅板を2枚用意し、四隅と中央に3.2mmの穴を開ける。
サーミスタはアロンアルファで銅板に接着し、サーミスタの上には厚み1mm程度の紙を接着しておきます。(紙と接する銅板が冷却側になります。また温度測定をしない場合は、サーミスタは不要です。)
シリコングリスをペルチェ素子に塗り、図のように並べ、もう1枚の銅板をかぶせて、3mmのネジ5本で固定します。配線は、直列接続にします。
冷却側の銅板には、厚さ0.5mmの銅板を半田付けして、水が蓄えられるようにします。
加熱面には、厚さ1mmのアルミ板で、スカートを付けます。銅板には3mmでタップ穴を切り、アルミ板を図のように3mmのネジで取り付けます。
出来上がり。
作ったゼーベック電池を充電(=加熱)する
コールマンのバーナー(508A型)を用意する。
バーナーと製作した「ゼーベック電池」をセットする。
白色発光ダイオード5個を適当なラグ板に半田付けし「ゼーベック電池」に配線する。
バーナーに100ccの専用ガソリンを入れ、点火します。
燃料はコールマンのホワイトガソリンを使いました。
炎が青白くなったらバルブを絞って、このくらいの微弱な炎にします。
「ゼーベック電池」には水を入れ、火にかけます。しばらくすると白色発光ダイオード5個は直視できない程に明るく輝きます。
この時の電圧と電流は3.8V / 280mAでした。水はそのうち沸騰しますが問題ありません。ただし、水が蒸発してなくなってしまうと熱破壊を起こすので注意が必要です。
火の強さは「最大 / 大 / 中 / やや弱い中 / 小 / 微弱」と6段階に分けた場合、「やや弱い中」までです。これ以上の火力を与えると壊れてしまいます。「微弱」で十分発光し、また燃料が満タンであれば6時間は炎を維持でき、発光ダイオードは点灯し続けます。
ゼーベック電池の寿命に関してはまだ正確なデータをつかんでいませんが、「微弱」でトータル48時間も実験を行いましたが、全く衰えを感じさせません。
ゼーベック電池の発電効率を計測し「実用性」を検証
単に発光ダイオードを点灯させるだけでも十分に面白いのですが、さらに高度な事をしてみましょう。
ゼーベック電池の各要素(電圧 / 電流 / 電力 / 積算電力 / 効率 / 加熱面の温度 / 冷却面の温度 / 稼動時間)を計測し、実用性を考えてみます。私は、用途に応じた計測機器を作るのが得意で、これを事業にしています。
今回は「電圧 / 電流 / 電力 / 積算電力 / 効率 / 加熱面の温度 / 冷却面の温度」を計測する機器を製作してみました。(電圧は0~10V、電流は0~2A、温度は20~180℃、電力と積算電力は計算によります。)
実験用に作った物なので、あえて筐体には入れてません。
パソコン側は計測ソフトにて受信された情報を加工して、表示と記録を行う(使用したパソコンは、IBM互換機P133 MHz)。
ゼーベック電池とバーナーを脚立にセットし、配線を行う。ホワイトガソリンを正確に100cc計量して、バーナーに入れます。
バーナーに点火して実験開始です。
電圧 | 0.000 ~ 9.999 V | 積算リセット | 積算電力を0にリセット |
---|---|---|---|
電流 | 0.0 ~ 2000.0 mA | 170℃以上アラーム音 | 下部温度が170度以上でBEEP音 |
電力 | 0.0 ~ 19999.9 mW | 15分タイマーアラーム音 | 15分経過するとBEEP音 |
積算電力 | 0.0 ~ 999999.9 mWh | RST | 15分タイマーのリセット |
温度 | 20 ~ 80℃ | 記録開始 | 電圧、電流、電力、積算電力、上部温度、下部温度、をCSV形式で1秒毎に保存 |
Memo 1~2 | 実験状況のメモ用 | 記録中断 | 保存の一時中断 |
設定 | メモ内容の記憶 | 記録終了 | 保存の決定 |
自作した計測ソフト「ペルチェ熱電池計測プログラム Ver1.20」を使ってモニターします。
CSV形式で保存できるので、エクセルで直接開いて加工できます。この図は、電流・電力・積算電力をグラフ化した例です。周期的な突出は、水を補給した時に生じています(冷却面の温度が急激に下がり、加熱面との温度差が大きくなった為)。
100 ccの燃料は、6000秒で使い切りました。火力が「微弱」の時で電流280 mAであったのに対して、今回は火力を「小」で実験し、400 mAを少し下回る程度です。
後半は火力が落ちてきて、330 mA程度になっています。電力は1500 mW程度です。積算電力は直線的に増加し、最終的に2480 mWhになりました。
温度に関しては、常時おおむね60℃の差であることがわかります。
電圧は約4Vを維持しています。(開放電圧は約12V)
ゼーベック電池の効率を計算
燃焼エネルギーと効率について考えてみましょう。
今回燃料として使ったホワイトガソリンの標準燃焼熱のデータがわからなかったので、探せたデータの中で最も近そうなベンゼンで換算してみます。
ベンゼン100gを燃やした時にでるエネルギーは、ベンゼン(C6H6)の分子量は78.11 g/molで、標準燃焼熱ΔH^OC(g)は、-3301.5 KJ/molなので、100g/78.11gから、1.28 molであることがわかり、-3301.5 KJ x 1.28 mol = 4226 KJになります。
これをカロリーに換算すると1Kcal = 4186.5 Jなので、1009 Kcalになり、1Kcal = 1kWh/860なので、効率100%であれば、1.17 kWhの電気が得られることになります。
今回の実験では2480 mWhしか取り出せなかったので、0.212%の効率となります(わずかに472分の1)。
しかし考え方次第では、試作のゼーベック電池としては、上出来なのかもしれません。
なぜならバーナーから出る熱はスカートの部分から逃げていますし、素子も3枚しか使っていないので水の沸騰と蒸発もはやく、熱損失は多く発生しています。
もし効率を1%にできたとすると、11.7 Whになり、これは電流に換算すると2.93 A(電圧は4V)にもなります。この次元になると、用途も見えてきます。
温度差を検証する
ゼーベック電池に水を滴下し、強制的に冷却して見ましょう。
- 空き瓶を脚立に吊り下げ、サイフォンの原理で水が出るようにします。
- 水は、図のようにゼーベック電池上部に落ちます。
熱せられた水は、同じくサイフォンの原理で下のカップに落ちます。上部水槽に水が適量残るように、2つの流量を調整(チューブをクリップで押さえて調整)します。
ホワイトガソリンを100 cc計量し、バーナーに入れ実験開始です。
温度に関しては、常時おおむね70℃の差であることがわかります。
電圧は約4.5Vを維持しています。
先の項目より効率は26%改善しました。
ホワイトガソリン100c = 1.17 kWhとし、今回は3120 mWhが取り出せたので、0.267%の効率(前回0.212%)。となりました。しかし構造が複雑で水を3Lも使用した割には、効率の向上はわずかで、実用的とはいえません。
【後編】ペルチェ素子を使った発電機を作る
ペルチェ電池を作る
今回用意した物は
- 100 mm x 365 mm x 1.0 mmの銅板2枚
- 100 mm x 300 mm x 2.0 mmのアルミ板を1枚
- 10 mm x 30 mm x 1.5 mmのアルミアングルを1メートル
- ペルチェ素子(S.I.S.製T150 – 60 – 127型)を12枚
- 半田
- シリコングリス
- 金鋸
- 電気ドリル
- 半田ごて(少なくとも100W)
- M3ボルト・ナット
などです。
銅板5枚、アルミ板1枚を100 mm角に切る。アルミアングルも長さ100 mmで切る。
アルミアングルは角を落とす。アルミ板は穴加工を施して、ビス止めする。スカート部分はこれで完成。
銅板に3 mmタップ穴を施して、首下40 mmのM3ボルトを通す。
ボルトの頭は半田付けしておく(防水)。
銅板側にペルチェ素子を3段4組で並べる。ペルチェ素子の表面には、全てシリコングリスを塗り、熱伝導を良くしておく。
スカートを取り付けM3ナットで締め付ける。ただし、締めすぎるとペルチェ素子が割れてしまうので加減する。配線は、3段部分を並列にし、それを4組直列接続にする。これで完成。
水を800 cc入れて、バーナーを点火します。(微弱な炎)
発生電力がLED 5個では補えなかったので、電球(3.6 V x 150 mA 2個を並列)を負荷とします。そして点火後数十秒で、明るく電球が光り出します。
4.0 V / 600 mAを示しています。
発電効率を再検証する
前編と同様に、100 ccのホワイトガソリンを燃焼させ、効率を測定します。前編の実験は火力が「小」でしたので、今回も「小」です。
電流は約800 ~ 500 mA、電力は約4000 ~ 2230 mW、積算電力は4400 mWhです。
上部温度は約96℃、下部温度は約180℃で、温度差は84℃です。
100 ccの燃料は、1.17 kWhの電力を生みます。(前編より)
今回は4400 mWh取り出せたので、0.376%の効率です。前編が0.212%だったので77%改善できた事になります。
ヒートシンクを取り付けて効率の改善を狙う
みっともないけど、ヒートシンクのほうが大きいのでとりあえず斜めにして入れる。
電流は約750 ~ 500 mA、電力は、約3300 ~ 2300 mW、積算電力は4550 mWhです。
上部温度は約96℃、下部温度は約180℃で、温度差は84℃です。
今回は4550 mWh取り出せたので、0.389%の効率です。ヒートシンクが無い場合が0.376%だったので、たいして改善されていません。感覚的にはもう少し改善されるかとも思いましたが…。
ラジエーターを取り付けて効率の改善を狙う
ラジエター(ヒートシンク+ファン)で冷却部の温度を下げ、効率の改善を見てみましょう。冷却部は100 mm x 100 mmの開口部があり、手持ちのヒートシンクが120 mm x 120 mmしかなかったので強引に使用してみます。
ファンは24 V / 45 mA(1.08 W)の電力を消費します。
電流は約650 mA、電力は約3000 mW、積算電力は5260 mWhです。
上部温度は約76℃、下部温度は約178℃で、温度差は102℃です。
ラジエーターの取り付けにより、5260 mWh回収できました。0.45%の効率です。
しかし、ファンが1.08 W消費するので、実運転時間はグラフから6300秒で、これを元に計算すると1890 mWhを消費したことになります。したがって差は3370 mWh(効率0.29%)になってしまい、期待した効果は得られなかったことになります。
以上にて「ペルチェ素子を使った発電機の作り方とその検証」は終了です。